とあるバイロン士官のお話


ー キャラネ市 ー 

◇連合兵士1「いたぞ!奴だ!」

◇連合兵士2「逃がさん、ここで仕留める」

◇バイロン兵A「中尉っ…!中尉ー-----!!!!!」

◇バイロン兵B「俺達の為に…最後まで…っ!」

___これは、たった1機で

孤立した友軍を救出し務めを果たした

バイロン軍中尉の物語___


・・・数時間前・・・

ーバイロン軍基地・執務室ー


お呼びでしょうか

◇上官「うむ、貴様に友軍の救出任務を命じる」

________

上官の命令で孤立した友軍の救援に向かうことになった、1機で。 

敵の包囲網を突破して友軍を連れて撤退する、1機で。

友軍を待たずに突撃命令を出した上官の代わりに、1機で。


◇上官「‥‥任務についての説明は以上だ、

 貴様の腕なら造作もないだろう」

◇上官「大丈夫だな?」

______大丈夫です

あまりの無茶振りに感情がスパークして

卑猥な言葉を叫びそうになったが

辛うじて耐えた…


部屋に戻った中尉は

上官の無謀な作戦をどう遂行するか

思い悩んでいた



落ち着け…状況を整理しろ…

目的は友軍の救出…

場所はキャラネ市…

中央に町を分断するように川が流れている都市だ

友軍は川を挟んだビル街で孤立し包囲されている

短時間で友軍を連れて撤退するには

強襲ヘリによる空からの救出だな…

機体は回収する時間はない

最低限の機密処理を施し破棄…

兵士だけを乗せて離脱する


___問題は向こう岸にある3基の重砲

重砲は並の火力じゃ破壊出来ないうえに、

1基でも残せば強襲ヘリは撃墜される…

重砲の破壊には火力が必要だ

本隊の支援砲撃で破壊できれば…

いや、3基同時は砲撃が分散して

確実に破壊出来なくなる


確実に破壊するなら・・・

上官に掛け合って本隊の長距離支援砲撃を要請

これにより重砲Aを破壊

敵が砲撃に動揺している間に

向こうで孤立している友軍が重砲Bを破壊する

同時刻、自分も川を突破して重砲Cを破壊

付近の敵部隊を撃破し

ヘリの着陸ポイントを確保する

あとは孤立した友軍を追撃してくる

敵部隊を自分が抑えれば…いける!

ん?んん…?少し待て

____自分の離脱タイミングは?

・・・

~~~ッッッッッ!ま___

◇バイロン兵士「中尉!機体の整備、完了しました!」


慌てて口から出そうになっていた卑猥な言葉を飲み込み

支援砲撃の件を上官に上申すべく

自分は執務室へ向かった


支援砲撃の許可を受けた中尉は格納庫へ向かう

迫りくる破滅を回避する手段が思いつかず

幾度も止まりそうになる足取りを

中尉に刻まれた軍人の責務が動かしていた


やがて中尉は愛機・ポルタノヴァのコクピットに

辿り着きハッチを開けると・・・


シートには中尉の物ではない本が置かれていた

これは…キャラネ市の観光ガイドブック?

ガイドブックにはメモが貼られていた


”よい旅を 土産を忘れずに”


この見慣れた筆跡は…「ツートン」か

自分を凌ぐ技量を持っていたのに

突然パイロットを辞めて音楽隊に入った変人が…

観光?笑えないジョークだ・・・

人の心ってものがないのか?

‥‥あっこの店いいな

360度見える水槽?!…町が復興したら見に行こう



ー キャラネ市 ー 

◇連合兵1「なんだ!?」

◇連合兵2「敵襲?!」

◇バイロン兵士A「通達のあった砲撃だ!俺たちも動くぞ!」

◇バイロン兵士B「機体が無い奴はロイロイにしがみつけ!」

砲撃を合図に、孤立していたバイロン部隊が

重砲に対し攻撃を開始

部隊に損害を出しつつも重砲の破壊に成功する



ーキャラネ市・重砲C付近ー

ブースター分離…よし

武装確認…ガトリング、マシンガン、

ヒートナイフ、ショルダーアーム…異常なし


これより周囲の敵部隊を撃破して

ヘリの着陸地点を確保する


連合軍のアルトと遭遇した中尉は

その場で膝をつきガトリングを斉射

敵機の武装を破壊する

敵機は破壊された武器を放棄

腰に装備していたピストルに手早く持ち替え

盾を構えつつ、ビルから飛び出し__

___”巨大な手”に絡めとられた

‥‥この作戦は時間との勝負

時間が経過すればするほど

敵部隊は数を増し、こちらが不利になる

今のうちに各個撃破させてもらう



ーキャラネ市・近郊上空ー

オペレーター「重砲の沈黙を確認した、直ちに指定ポイントへ向え」

ヘリパイロット「了解、これより指定ポイントに向かう」


ーキャラネ市・ビル街ー

挟撃!?

ガトリングが弾切れ!?

手が足りない…!”肩手”を使う!

中尉は肩手にマシンガンをセット

正面の敵をけん制しつつ

ガトリングの弾倉交換をよどみなく行い

背後から襲い来る敵機にガトリンを乱射した


しかし背後の敵に意識を向けていた中尉は

マシンガンの弾切れに気づくのに一瞬遅れてしまう

その隙を敵は見逃さず、中尉に向けてキャノン砲を放ち

中尉は肩手とマシンガンを破壊されてしまった

肩手をやられたっ!

左腕は!…よし、まだ動く


ー キャラネ市・ヘリ着陸地点 ー 

◇バイロン兵士E「これで全員か?!」

◇バイロン兵士G「いえ、まだ到着していない部隊が…」

◇バイロン兵士E「何だって?!もう時間が無いぞ…!」


まずい…想定より敵の動きが速い

もっと武装を積んできた方がよか___

猛スピードで突進してくる敵機に向けて

中尉は即座にガトリングを斉射

しかし弾丸は敵機の分厚い盾に阻まれ___

中尉はシールドバッシュを食らいビルに叩きつけられてしまう

敵機のアルトは盾を引くと同時に

長刀を逆手に持ち替え

中尉に斬り掛かるが


中尉は盾が引かれ機体の拘束が緩んだ瞬間

ガトリングを武器ではなく

身を守る盾として長刀に差し出す


代価として得たわずかな時間で

中尉は敵機に体当たりを仕掛け

自分もろとも敵機を転倒させた



本来であれば中尉のタックルは愚策、

苦し紛れの抵抗である


敵を拘束し続けなければ

長刀によって中尉の機体が

両断されしまうからだ


対する敵機は拘束されているものの、

時間が経てば友軍が駆けつける


だが、幸運の女神は中尉に味方した

偶然、敵機の後腰に装着していたピストルが

転倒した衝撃で外れたのだ

その幸運を、中尉は見逃さなかった

この長刀…一度使えば劣化して

使えなくなる赤熱系ではない”業物”か

すまないが、これは頂いていく

自分にはまだ…

果たさなければならない務めがあるのでな


ー キャラネ市・ビル街 ー

◇バイロン兵B「もういい!俺たちを降ろせ!」

 「”お荷物”を大事に抱えて…こんな速度じゃいい的だ!」

◇バイロン兵A「へっ、いやだね

 戦友見捨てて生きるくらいなら

 死神とキスした方がマシだ」

◇バイロン兵B「大馬鹿野郎がっ…?!前方に敵!」

◇バイロン兵A「へ__」

その場から動くな!

そう味方に言い放つと中尉は盾を構えて前へと突き進む


中尉の突進に敵機は冷静に対応する

片方ずつマシンガンを撃つ事で

中尉を盾の中へと封じたのだ



やがて弾切れになった

右手のマシンガンを投げ捨て

自由になった右手がビル影に消え


再びその姿を見せると___

___ヒートソードが握りしめられていた


ヒートソードは瞬時に赤熱化し

中尉の機体が「盾ごと切断できる距離」に

到達した瞬間、赤い閃光が疾走(はし)った

溶断された盾の狭間から見えたもの

それは敵機の望んだ光景ではなかった

敵機が完璧な間合いで斬撃を繰り出した時

中尉もまた、完璧なタイミングで盾を手放していたのだ


自分はジョセ中尉、救援のヘリはまだ着陸地点にいる

だがこのまま前へ進むのは危険だ

今送ったルートを進め

◇バイロン兵A「中尉…俺も残って戦います」

申し出はありがたいが…

丸腰の味方は今必要としていない

◇バイロン兵A「‥‥申し訳ありません」

気にしなくていい自分はただ、責務を全うしてるだけなのだから

◇バイロン兵A「…どうかご無事で!」

…もうしばらく踏ん張る必要があるようだ

やってやるさ



その後の戦いでも勝利を収めた中尉であったが

唯一の武器である長刀は

敵機を両断をし終えると

武器としての天寿を全うした

はぁ・・・はぁ・・・・・っ‥‥

機体もだが…自分も…そろそろ限界だ…


孤立奮戦による疲労で

途切れそうになる意識を

中尉は思考を声に出す事で

なんとか繋ぎ止めていた


さっき出会ったあの部隊は

無事にヘリに辿り着けただろうか・・・


今から逃げるか?

…駄目だ、敵の数が多過ぎて突破できない


腹が減った・・・甘いジュースが飲みたい・・・


ふつふつと湧き出す思考と欲望、あてどなく彷徨うなか

ある建物に目に留まる

ああ…この建物…もしかして

観光ガイドに載ってた一流ホテル…


…こうなる前に一度泊まってみたかった

評判がとてもよくリピーターも多いホテル‥‥

飯が旨くて交通の便もよくサービスも___


その時、中尉の頭に電流が駆け巡った

コクピットの床に放置していた観光ガイドを急いで拾い上げ

ページをめくった中尉はつぶやく


なんて事だ・・・

なんで気が付かなかったんだ

見つけたぞ___脱出方法を!


・・・

自分の家はいわゆる軍人家系というやつで

父親も祖父も曾祖父も…代々軍人だ

そんな訳で自分は物心がつく前には

家にあったポルタノヴァにこっそり乗っては

父によく怒られたっけ・・・


でもそのおかげで___こういう事ができる


ライトスイッチを押しながらエネルギゲージをOFF

さらに右腕の関節をロックして操縦桿を少し後ろに倒すと‥‥


メンテナンスモード起動

<< メンテナンスモード >>

<<テスト項目>>....<<歩行>>...<<オートクルーズ>>...実行


ごめんな お前とはここでお別れだ…

今まで自分と戦ってくれてありがとう…ポルタノヴァ


…<<ハッチ開閉テスト>>...<<閉>>...<<30秒後>>...実行

幾度も戦場を共にした愛機を見送り

中尉は脱出経路である___地下鉄へと下った


ー キャラネ市 ー

◇連合兵士1「いたぞ!奴だ!」

◇連合兵士2「逃がさん、ここで仕留める」

◇バイロン兵A「中尉っ…!中尉ー-----!!!!!」

◇バイロン兵B「俺達の為に…最後まで…っ!」


ー キャラネ市・地下鉄内 ー 

トンネルが崩落してなくてよかった

連合軍のアルトも地下トンネルには入れまい___


その時、目の前が急に明るく照らされ

中尉の視界は白く塗りつぶされた

光に目が慣れ視界が正常に戻ると

目の前には行く手を阻むかのように

ロイロイが佇んでいた


ああ…希望に目が眩んだ

地下トンネルにアルトは入れなくても

ロイロイならばと‥‥思い至らなかった

手にした銃を放り投げ、手を上げたが

目の前のロイロイは微動だにしない

その時ポケットに入れていた携帯端末が振動する


メッセージ…?誰からだろう…確

認したいが…今動いたら死ぬな…これは


するとなぜかロイロイのライトが点滅した


・・・?なんだ?


携帯端末が再度振動し、それに呼応するかのように

再度ロイロイのライトが点滅する


・・・もしかして‥‥これは‥‥

恐る恐る携帯端末をポケットから取り出して

メッセージを確認すると___


”観光は楽しかった?” ”土産はある?”


あー!!!味方だこのロイロイ! 

というか…「ツートン」だこいつ!


緊張の糸が切れ、その場にへたり込む中尉

その姿を見たロイロイは

笑っているかのように

ライトを激しく点滅させた


・・・

その後、自分はツートンのロイロイに乗って地下鉄を抜けて

無事に救出任務を完遂し、基地へと帰投した

・・・


・・・数日後・・・

ー バイロン軍基地 ー

はぁ…

あの状況から生還できたのは良かったが

愛機を失ったのは…少し堪える

<ピピピピ>

ん?上官からの呼び出し?なんだろう…?



ー バイロン軍基地・執務室 ー

◇上官「先日の救出任務ご苦労だった

 褒美として貴様に新しい高性能機を用意した」

…自分はポルタノヴァを希望したはずですが

◇上官「安心しろ、ポルタノヴァをベースにした機体だ」

‥‥‥‥失礼しました、

上官のご期待に沿えるよう今後も___

◇上官「さっそくだが貴様に任務を頼みたい、

 新しい機体の慣らし運転には丁度いいだろう」

・・・・・

え?!敵陣に単機で強硬偵察!?‥‥でありますか

◇上官「大丈夫だな?」

______大丈夫です

戦いが続く限り、中尉の苦労も続く___


ー バイロン軍基地・中尉の個室 ー

〇〇〇ー-------!!!!!


とあるバイロン士官のお話 ー完ー