その他・俺の乗機3


家でくつろいでいるとジャンク屋のジジイから急な依頼の電話が掛かってきた


ジジイ「"パーツ拾い"に行く、お前もすぐに来い!」


俺が返答する前に電話切りやがった

…人の都合を考えないジジイだぜまったく

俺は愛機に乗り込みジジイのジャンク屋へ向かった



店には誰もおらず、カウンターには合流地点が掛かれたメモが置かれていた

…どうやらジジイは先に出発したようだ


この手の依頼をジジイから何度も受けていた俺は

いつも通り機体に装備していた全ての武装を取り外した後

ガレージに置かれているオンボロ輸送機を引っ張り出し

機体を接続、合流地点へフライングゴー!


このオンボロ輸送機は60年以上前の骨董品だが

整備士として優秀なジジイの手によって今も元気に稼働している

‥‥飛行中たまに煙を吐くがな


合流地点にジジイの「愛車」が見当たらない

レーダーを見ると数キロ先を移動する物体の反応…ジジイだなこれ

その物体はやはりジジイだった

合流地点を自分で指定しておいて先に目的地へ向かってやがる‥‥

相変わらず我慢のできない奴だぜ


ジジイの「愛車」は100年以上前の採掘重機を改造した一品で

一言で言うと薄汚ねえ骨董重機…ジジイの頭には清潔や清掃という言葉は無いらしい

ジジイの整備士としての腕は一級品だが機体を整備に出すと

機体が機械油まみれになって返却されるんで人気が無い


腕はいいし金が無い時は酒をおごると整備してくれたりツケOKだったりなんで

金に愛想を尽かされる事が多い俺はよく整備を頼んでいる

…機体が返却されたらロイロイで洗車ならぬ洗機してるがな!




目的地の放棄された町では連合軍とバイロン軍が激しい戦闘を繰り広げていた

そして軍が衝突すれば発生する「獲物」には

既に多くのジャンク屋たちが群がっている


「お前がチンタラしとるから出遅れた!」とジジイがお怒りだ

ジジイの文句を受け流しつつ

俺は上空からまだ手を付けられていない「獲物」を探す


上空からは戦場で蠢くジャンク屋たちが良く見える…ほんと命知らずなやつらだぜ

さて…一見するとルール無用のジャンク屋連中だが実は暗黙のルールが存在する


1つ、獲物は早い者勝ち

2つ、負傷者には手当を施せ

3つ、ワンオフ機には手を出すな

4つ、ホトケさんには敬意を払え


1の早い者勝ちは戦場のど真ん中で下手にケンカすると

流れ弾や戦闘に巻き込まれて死ぬって事で自然とできたルール


2は情けは人の為ならずっていうか…持ちつもたれず?

ジャンク屋は正規軍の回収部隊よりも早く現場に到着…というか既にいるので

本来は救援が間に合わない負傷でも迅速な応急手当のおかげで

一命を取り留めたケースが意外と多い

そういう事もあってか軍は戦場をうろつくジャンク屋を黙認してる


3は当たり前だがワンオフ機体ってやつは大体が試作機か指揮官機

つまり機密情報の塊で…軍が本気で追跡してくる

昔…ワンオフ機を持ち帰ったジャンク屋がいたらしいが

その時は現場から半径数百キロの町全てでジャンク屋のガサ入れが行われ

無関係な奴もまとめて絞られたそうだ

まっ‥‥物事には限度があるってことね


最後のは___戦場にいる野郎ってのは大なり小なり死を覚悟して来てる

だから自然と…散った奴には敬意を払っちまう

男のセンチな感情ってやつさ


…ん?ジャンク屋に医療の心得なんてあるのかって?無いよ?

正確に言うとジャンク屋は「こけし売り」が売ってる救命ポッドに

負傷したパイロットを入れて「死に医者」に引き渡してるだけ


「こけし売り」は救命ポッド売りの通称で

救命ポッドの形がこけしっぽいからついた名前だ

こいつらは命を救うより金儲けが好きな奴らなんだが

結果的には命を救っているのでいなきゃ困るやつら


「死に医者」は「保身なきゼロ距離医療」を掲げる医師団の通称だ

団体の創設者が「病院で待っていては救えない」と

単身で戦場へ出向いたのが始まりらしく

今じゃキャリアーを改造した治療車で戦場に乗り込んで救命活動をしている



連合バイロン双方の負傷者を治療してるんでどっちの軍にも顔が利き

軍需企業から多額の資金援助を受けてるせいか

権力者の中には「死に医者」を快く思っていないが結構いるらしい

‥‥立派な活動してても疎まれる、やな世の中だわ



治療車には非武装の守備隊が随伴している

守備隊のパイロットは大半が「死に医者」に命を救われた元軍人

連合、バイロンの隔てなく協力して護衛を務めており

統率が取れており士気も高い


上空から獲物を探していると

突如警告音が鳴り響く

どうやら連合軍の機体にロックオンされたようだ

だがすぐに隣の機体が攻撃を制止するような動きを見せると

それから間を置かずにロックオンは解除された

…俺がここへ来る前に武装を全て外した理由がこれ

武装していると”作戦行動の障害”と見なされ攻撃目標になっちまうんだ

今のように飛行している場合だと特に目立つので武装してるとかなりヤバいぜ


おっ…倒れたまま動かない機体発見

俺はジジイに連絡を入れてから発見した機体のそばへ着陸する

アルトとポルタが折り重なるように倒れている・・・


ポルタのコクピットの真横にはソードが深々と刺さり

アルトは右腕が吹き飛び機体のあちこちに弾痕

…ソード片手に突っ込んできたアルトをポルタが迎撃できず相討ちってところか



コクピットをこじ開けパイロットの安否を確認する

‥‥ポルタのパイロットは脇腹をやられており既に息絶えていた

アルトのパイロットは体中に破片が刺さってはいるものの、すぐに治療すれば助かりそうだ

俺が重傷者1名とホトケさん1名を救命ポッドに収容している間に

ジジイは破損した機体にタギング(ジャンク屋同士で通じるマーク)を施しており

俺たちは急ぎ治療車へと向かった


治療車には多くの救命ポッドが運び込まれていた

忙しく動き回っている医者の一人に声をかけ

救命ポッドを引き取ってもらった俺はさあ次の獲物探しだと

この場を後にしようとした時だった____

レーダーがこちらに急速接近する機影を捉えた

___嫌な予感がする



治療車の周囲を守っている小型量産機が静止しようとしたが

接近する機体は容赦なく小型量産機を撃破し前進を続ける


盾持ちを殺すのに特化した兵装…すでに標的と定めているような迷いのない動き

‥‥襲撃者は傭兵だな

恐らく治療車に乗ってる医者の暗殺依頼かなにかを受けたんだろう

撃退して医師団に恩を売っておくのは良さそうなんだが

‥‥今武器無いんだよね


「卑劣な真似を!我慢ならん」とジジイが突撃準備に入った

ジャンク屋が傭兵相手にそんなもので突撃しても死ぬって!

じゃあお前が行けって?武器ねぇよ!

は?武器ならある?

ジジイ!やっぱ無茶だってこれ!「愛車」と俺の機体を無理矢理接続したせいで

さっきからエラー音が鳴りっぱなしだぞ!

それにこのドリルってか重機が重すぎて重心バランスが最悪だ!

これじゃ回避行動した瞬間バランス崩して戦闘不能だぜ!


1番機「だったら俺たちがエスコートしよう」

周囲に展開していた医師団の守備隊がジジイの無茶振りに乗っかってきやがった!

‥‥いいぜやってやるよ

突撃だ!



5番機大破!

…っ!1発なら盾でバズーカを防げるが

2発同時に撃たれると盾は無事でも機体が衝撃に耐えられないか…


1番機「怯むな!全機前進!」


4番機大破!

1番機「__っ! 3番機!穴を埋めろ!」

3番機大破!


数分も待たずに守備隊は残り2機‥‥ッ!

ジジイ!そろそろ準備はできたか?!


「愛車」の機関部ではジジイが俺の機体と愛車のシステムの接続作業を行っていた


ジジイ「動力炉の安全装置解除、出力最大!」

   「炉の内部温度上昇____排熱弁全開放____内部温度…危険域に到達!」

   「ドリルの回転数限界突破!自壊まで120秒!」

   「コントロール権限を接続機へ!…ギリギリまでブースターは点火するなよ!」


コントロール権限を受諾、ブースターは…これか

ジジイー!あとはこっちでやるからー!さっさと脱出しろー!

2番機大破!




ジジイは脱出したか…

これで遠慮なくこいつをブチ込める

というかさ…今更だけど…1番機の人…そんな小さな盾で大丈夫…?

1番機「安心しろ、小さい盾には小さい盾の___」


1番機「___使い方がある」


バズーカの弾頭目掛けて盾を投げた?!当てた!? 2回!? はぁ?!


1番機「奴のバズーカは弾切れか?リロードの__そう甘くはないか!」

   「後は頼んだぞ!」

1番機___大破!





1番機には自爆特攻用の爆薬が仕掛けられており

爆発により生じた黒煙は周囲を黒く染める


襲撃者がバズーカのリロード完了と黒煙から機体が飛び出したのは同時

否、ほんの僅かだが黒煙から機体が飛び出す方が速い

もし同時であったなら___勝者と敗者は逆転していたのだから


コクピットはそっちか

追撃は…止めた方がいいな、藪をつついて蛇に嚙まれたくない

それに…今は俺を守ってくれた守備隊の救助しないと

‥‥まっ、一応撃退はできたし、それで良しとしよう


大破した守備隊の機体からパイロットを救出

治療車へ送り届けた俺は

医者や守備隊の歓声を背にこの場を後にした





___ここまでは誰もがハッピーなエンドだった



・・・

・・・

俺の機体は無茶をしたせいで

各関節の総取り換えする羽目になり

死に医者とジジイの報酬はその代金に消えた…


‥‥機体の修理費を差し引くと

今回の報酬は酒1本程度さ…とほほ‥‥


俺の乗機3ー 骨折り損のくたびれ儲け ー

~END~








あとがき

最初は些末な依頼で起きる小さな出来事って感じで作ってたんだ

AC6やったせいか後半が派手になっちゃったぜー!

守備隊5人の設定を置いておくので見たい人だけ見てね

俺はAC6のアリーナの人物説明大好きマン!




守備隊の人物設定


・5番機 メーン・クジマ

元連合軍パイロット、両足義足

戦闘で両足を失い自暴自棄に陥るが、自分と同じように両足を失っても

死に医者の守備隊を務めている4番機のパイロットの姿を見て

自分にはまだやれる事があると守備隊に入った


・4番機 シュン・ジン

元バイロン軍パイロット、両足義足

戦闘で両足を失うが、危険を承知で戦場に赴き

連合バイロンの区別なく負傷者を救う死に医者の姿に感銘を受け

この人達の手助けがしたいと守備隊に入る

4番機のパイロットとは仲が良く、よく二人でコンビを組んで治療車を護衛している


・3番機 ロイ・ケイホ 

元連合軍パイロット、片目義眼

戦闘で左目を失ったが、治療に当たっていた女医に一目惚れした彼は

猛アタックの末にその女医と結婚した

彼曰く左目に刺さったのは破片ではなく「キューピットの矢」だそうだ


・2番機 ヨイツ・ミジネ

元バイロン軍パイロット、右腕義手

軍人時代は”無塵の破槌”の異名で恐れられていた

1番機のパイロットと幾度も激闘を繰り広げたが

激しい嵐の中で行われた死闘の末に2人の機体は大破、互いに重傷を負った

激しい嵐で救援は間に合わないと悟り

コクピットで静かに死を待っていたが1番機のパイロットが

「手を貸してくれ、片腕が千切れて手が足りないんだ」と通信を入れた

彼は「奇遇だな、こちらも片手を失い手が足りていない」と返答し

救援が到着するまで彼らは手を貸し合い生き延びた


・1番機 ヤーゲ・キュウケ

元連合軍パイロット、左腕義手

軍人時代は”鉄壁の機装”の異名で恐れられていた

守備隊を束ねる隊長的な存在だが、本人は気楽なヒラ隊員になりたかった

しかし指揮能力と人をまとめる才能を

持っていた彼の願いが叶うことは無かった